薬学部に限りませんが、理系学部では概ね「実験」をします。また、「研究室」と呼ばれる場所に教員が所属しています。上の学年になると一般に学生は研究室に所属して研究に参加することができます。私の持論ですが、研究室で過ごす時間はみなさんにとって「使える」経験になるはずです。
大学生活の殆どは講義です。理系学部では実習がありますので、全てが講義ではありませんが、それにしても講義のウェイトはかなりのものです。講義のスタイルも時代に応じて次第に変化してきてはいますが、基本は「与えられる」知識です。受身で情報を取り込むという基本路線は昔からあまり変わっていません。ところが、人間が何かを身につけるときには「聞く」というのは効率の悪い方法です。例えば、「見る」の方がまだ身につきやすいでしょう。さらに「体験する」方が良いのは、いうまでもありません。リトマス試験紙の色について説明を聞くより、レモン汁をつけて変化したという経験を持つ方が、リトマス試験紙についてよく理解することができます。
実習はどうでしょう。実習はやってみるわけですから、なかなか印象としては強く残りそうです。ところが、私もそうですが、10年もするとその時のことはすっかり忘却の彼方です。実習の中身を10年も覚えておく必要はないので、それで良いのですが、「やってみた」としてもまだ「身についた」というところにはたどり着かないわけです。
研究とは新しいことや新しい見方を見つけることです。そこでは誰も分かっていないことを調べます。誰も分かっていないことにもいろいろあって、おおよそ想像がつくことと、一方でまったくどうなるかわからないことがあります。研究者と呼ばれる人は、通常は後者が好きなことが多いです。
さて、分からないことを調べるためには、分かっていることから始める必要があります。そこで、過去の研究成果を調べて分かっていることと、分かっていないことの線引きをします。そして、分かっていないことを調べるためにはどんな方法がいいのかを選択します。そして、分かっていないことに対して自分なりの仮説を立てて、それを検証するわけです。実験してみて、仮説がぴったりする場合もありますし、仮説が誤りである場合もあります。誤りの場合は、より適切な仮説を考えます。これを繰り返して、「分からない」ところを「分かる」ように変えていくわけです。
こうしたプロセスには「やってみる」だけではなくて、「考える」というプロセスが入ってきます。即ち、「考える」ことが加わって初めて一つのことが身につくようになります。
こうしたプロセスは研究だけのものでしょうか?そんなことはありません。みなさんが何かを身につけるときには、知らず知らずのうちにこうしたプロセスを踏んでいるのです。日常では「実験」ではなくて「体験」かもしれませんが、似たようなものです。研究室では「分かる」ために必要な手続きを練習することができるのです。こういう要素は理系の学部の一番優れた要素ではないかと私は感じています。
2008.07.15田中智之
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