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血管新生は「天使」と「悪魔」の二つの顔を持つ!?

血管とは血液の流れる管です。既に存在している血管とは別に私たちの身体の中で新しく作られた血管を新生血管と呼び、新しい血管が作られることを血管新生と言います。私たちの日常生活の中でも、ケガをした時にはこの血管新生が起こっています。すなわち、傷口を修復するために血管新生という現象が必要なのです。

一方、がん細胞は、血管新生という現象を悪用することで自身をより一層増殖させるとともに他臓器へ転移する際の通り道として利用することが知られています。すなわち、がん細胞は自分の近辺の血管から新生血管を構築させることで栄養と酸素を十分に補給するとともに、新生血管を経由して近辺の血管へ侵入するわけです。

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今、臨床の現場では、血管新生を促進するお薬と、血管新生を阻害するお薬の両方が使われています。まず、血管新生を促進するお薬ですが、一般名をトラフェルミン(商品名フィブラスト)と言います。これは、血管新生を促進する因子の一つである線維芽細胞成長因子の遺伝子組換え体製剤です。このお薬は、寝たきりの患者さんに起こりやすい床擦れ(褥瘡:じょくそう)の治療薬です。床擦れは、寝たきりの患者さんでは、なかなか寝返りを打てないために体重のかかった皮膚が血液循環不全を起こしてしまったことが原因で発症するのです。トラフェルミンを床擦れ患部にスプレーしますと血管新生が促進されて血流が改善され、治療効果が現れます。

次に、血管新生を阻害するお薬の一般名をベバシズマブ(商品名アバスチン)と言います。これは、血管新生を促進する因子の一つである血管内皮増殖因子に対するモノクローナル抗体製剤です。がん細胞が分泌する血管内皮増殖因子に特異的に結合してその働きを封じ込めてしまうのです。このお薬は、治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん患者さんに対して他の抗がん剤との併用で用いられます。

最初に述べましたように、血管新生は床擦れ部位の修復にとっては「天使」の働きをしますが、がん患者さんにとっては「悪魔」の働きをするわけです。それらを裏付けるように床擦れ治療薬トラフェルミンは、皮膚がん部位にスプレーすることは禁じられていますし、結腸・直腸がん治療薬ベバシズマブの副作用に創傷治癒遅延(傷口が治りにくい)が挙げられています。

2008.06.03中村一基

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