二つ以上の病気を抱えている場合に、二つ以上のお薬を飲み合わせるのは仕方ありませんし、理解も出来ますが、そうではなくて一つの病気に対して同じ効き目のお薬を二つ飲み合わせることがあります。もちろん効き目を増強させるという目的もありますが、それ以外に、れっきとした理由があるのです。
代表的な例として、血圧の高過ぎる患者さんに、カルシウム拮抗薬とベータ遮断薬の両方を処方するケースを挙げます。カルシウム拮抗薬とは、細胞内にカルシウムが流入するのを阻害することで血管を拡張させる降圧薬です。一方、ベータ遮断薬とは、ノルアドレナリンという心筋収縮力増強物質がベータ受容体に結合するのを妨害する降圧薬です。最近では、レニンという昇圧物質が腎の傍糸球体細胞から分泌されるのを防ぐ作用も知られています。
この二つのお薬は、いずれも血圧を下げる降圧薬ですから、もちろん、その作用を増強するという目的もあるのですが、実は、本当の目的が別にあるのです。カルシウム拮抗薬の副作用として反射性頻脈があり、この副作用により患者さんの心臓に負担が掛かってしまいます。ところが、ベータ遮断薬を飲み合わせますと、この副作用を未然に防ぐことが出来るのです。正にベータ遮断薬は、カルシウム拮抗薬の主作用である降圧作用を増強するとともに、副作用である反射性頻脈も防いでしまうのです。
次に、最近話題の新薬である関節リウマチ治療薬インフリキシマブ(商品名レミケード)は、点滴静脈内注射用剤ですが、このお薬は、関節リウマチ発症原因に関わりの深い腫瘍壊死因子アルファに対するモノクローナル抗体製剤です。すなわち、患者さんの体内で腫瘍壊死因子アルファに特異的に結合して、その働きを封じ込めてしまうのですが、このお薬は、やはり関節リウマチ治療薬であるメトトレキサート(商品名リウマトレックス)と併用することによりはじめて関節リウマチ治療薬として認可されています。メトトレキサートには、免疫抑制効果があるために、抗リウマチ作用を増強するだけでなく、インフリキシマブの静脈内注射の際に起こり得るインフリキシマブに対する抗体産生(インフリキシマブを外部から侵入した抗原とみなすことによる)とそれによるショック反応を防いでくれるのです。
2008.06.10中村一基
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