我々の身体には、生まれながらにして恒常性維持機構と呼ばれる素晴らしいシステムが備え付けられています。例えば、血圧が下がった場合に元に戻そうとする循環反射がよく知られていますよね。今回は、その恒常性維持機構を利用したお薬の話です。
皆さんは炭酸脱水酵素をご存知でしょうか?私たちが1日に排泄する尿量は1から1.5リットルですが、腎の糸球体で濾過される原尿は何とその100倍の100から150リットルなのです。すなわち原尿の99%は尿細管から再吸収されているのです。その再吸収の一翼を担っているのが炭酸脱水酵素で、おもに近位尿細管において尿を再吸収してくれています。現在、臨床で用いられている利尿薬の多くは、尿の再吸収を阻害するお薬ですが、炭酸脱水酵素を阻害するアセタゾラミド(商品名ダイアモックス)もその仲間です。
本来は利尿薬のアセタゾラミドですが、このお薬は、肺気腫における呼吸性アシドーシスの治療薬でもあります。炭酸脱水酵素は二酸化炭素と水を最終的には水素イオンと重炭酸イオンに変える酵素であり、尿細管からのナトリウムイオン吸収を促進して水素イオンを尿中に排泄させます。従って、炭酸脱水酵素を阻害するアセタゾラミドは、水素イオンの尿中排泄を阻害しますので、尿はアルカリ性に傾き、反対に血液pHは下がり、アシドーシスを来します。このようにして起こるアシドーシスを代謝性アシドーシスと呼び、呼吸能力が低下するために血中の二酸化炭素濃度が上昇して生じる呼吸性アシドーシスと区別しています。
そこで本題です。アセタゾラミドを投与されますと患者さんの血液は代謝性アシドーシスとなりますが、その時に生体の恒常性維持機構が機能して呼吸を促進させて多くの酸素を取り込み、血液pHを上げようとしてくれます。もうお分かりでしょうが、これがアセタゾラミドによって呼吸性アシドーシスが改善される仕組みです。
2008.06.28中村一基
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